la dolce vita

記者による映画解説(ネタバレあり)。ときどき書籍にも言及します。

映画『ハルコ村』を観る

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山形国際ドキュメンタリー映画祭金曜上映会で、サミ・メルメール監督『ハルコ村』を観てきた。YIDFF2019アジア千波万波部門の奨励賞作品らしい。

トルコのアナトリア高原にあるハルコ村(監督の故郷)は、酪農や内職で辛うじて生計を立てる貧しい村で、ために男たちは出稼ぎ先を求めてアンカラや欧州に渡って行ってしまう。残された妻、母たちは毒づきながらも身の上を案じ、たまの連絡と送金で生きていることを確認する。

映画の中盤、出稼ぎ先から「50歳になったら欧州には住めない。故郷で暮らしたい」と嘯いて帰ってきた監督の叔父が現れる。村の若い女の結婚式、婚期を過ぎかけた娘(監督の従姉妹か?)に叔父は厳しく諭し、また海の向こうへと帰っていく――。

ハルコ村は女たちだけの村というわけではなく、一応若い男たちもいるようだ。だが、相変わらず村の生活は貧しい(一応スマホは普及しているようだ)。欧州に渡って行った男たちも向こうで勝手に故郷を捨てて所帯を持ち、中には妻を残して出稼ぎに行った50年後に破産して帰ってきて、その間育児から家屋の修築まで家の一切を取り仕切っていた妻に相手にされず捨てられていく、などというケースもあるようだ。

作中の被写体は村人のなかでも監督の実家であるメルメール家の人間たちだが、揃いも揃って歴戦の肝っ玉おっかあで、彼女らが切り盛りして培ってきた土地と時間と記憶が、このドキュメンタリー映画の主人公であり、その裏にある孤独を前にした弱さというものもその表裏一体のテーマなのだろう。

あと、土地と血族をテーマにするとやはりガルシア=マルケス百年の孤独』のオマージュめいたところ、意図せず似ているところがあって、その手の作品を作る方法論としてもなかなか面白みがある映画だった。それはそれで表現の画一化で、決して褒められるべきことではないのだが。