la dolce vita

記者による映画解説(ネタバレあり)。ときどき書籍にも言及します。

映画『SKIN/スキン』を観る

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フォーラム山形で、映画『SKIN/スキン』を観てきた。本編の前に、21分の短編映画が上演され、構造がよくできている短編の方が映画祭で好評を博したようだ。

貧しい生活を強いられているブライオンは、白人主義者の団体の主要人物となっている。団体は隠然たる勢力を持っていると思われる怪しいおっさんによって、宗教教団なみの厳しい組織となっており、ブライオンも育ての親がその団体だからと渋々とは思われるが協力している。だが、行きずりで3人の娘の謡いで収入を得ていると思われるシングルマザーのジュリーと出会い、交際が深まるうちに次第に足を洗って新しい生活を始めようと希望を抱くが、同時に黒人や移民のなぶり殺しにも手を染める団体の活動内容にも疑問を持つようになったのが周知するところとなり、ついに家を捨ててジュリーと逃避行に打って出る。新居まで追いかけ、時に銃撃も辞さず徹底的に追跡を続ける団体の幹部たち。ジュリーたちとも別れ、孤独になったブライオンに、反ヘイト主義政治運動家の黒人ジェンキンスが手を差し伸べる。ブライオンは、最後の望みを賭けて身体のタトゥーを消し去り、過去との決別を図る。

物語は、2003年に創設されたスキンヘッドとタトゥーの集団『ヴィンランダーズ』の一員・ブライオンの実話に基づくものらしい。件の団体の描写もその内情に準じているようで、ヴァイキングという集団認識や北欧っぽい文化様式が使い回されている。教団内の戒律は厳しく、粛清への協力による「昇進」も奨励されている節があった。おいおいおい、ヘイトくらいでなんでオウムみたいな組織になってるんだよ、と思ってしまったが、これが現実だから怖い。タトゥーの形状から、ナチズムへの傾倒もそれと知れる。

途中から、この手の人間が過去と訣別するという話は結局最後無惨な結末に終わるという傾向を思い出し、実際そういう流れになってきたので半ば諦め気味で観ていたが、最後は自白による捜査協力でFBIが団体を一斉摘発し、禍根の根は断たれる。そして変われたかどうかは知らないが、事実としてブライオンは600日余りかけて手術でタトゥーを全て消し去り、抱き締めたり別れたりヒステリーを起こしたりして随分身勝手が目立ったジュリーとよりを戻して幸せに暮らす。エピローグでは現在犯罪心理学を学び、転向者として講演活動を通じて社会の包摂に尽力する近況が紹介されていた。

私が個人的に興味を持ったのは、実在の人物で現在も反ヘイト運動に生涯を捧げるジェンキンスなる人物である。彼は決してキング牧師やマルコムXのような聖人としては描かれておらず、差別犯罪者は全米ネットに顔入り動画をアップロードして求職の道を断つなど、だいぶエグいことにも手を染める現実主義者として描かれていた。おそらく、聖者が現代に生まれてもこういう活動の形態を取っているだろうという含意も見て取れ、綺麗ごとや一筋縄では処理しきれない現代の反ヘイト運動の難しさを象徴している。だからこそ、最後にブライオンの転向をアシストし、現在もブライオンと友人として親交が続いているというエピローグでは、前半部分の登場の少なさから、随分ちゃっかりとした親友だなあ、と若干すねた感想も出てしまった。

ところで、本作品はブライオンが団体の幹部に育てられレイシズムと忠誠を教育として刷り込まれたのを引き合いに「人間は果たして過去と訣別し、変わることができるのだろうか」という裏テーマをある程度普遍化している節が見られる。一般論として私の答えを言うなら、「理解者次第」ということだろう。ジェンキンスに助けられたブライオンは運が良かったし、精神障がい者の社会復帰には精神科医や福祉士の理解が必要不可欠だし、犯罪者の更生には刑務官や支援団体などの協力が必要だ。現状まだまだそれは出会いという「運」によるところが大きいことを示す映画として、今後この作品は必見となってゆくことだろう。